2026年6月号掲載
「攻め」の経営に取り組む神奈川歯科大学理事長
※本記事は、「新聞クイント 2026年6月号」より抜粋して掲載。
「感性」と「先見性」で先を見据えた経営に取り組みたい
2009年、大学の不祥事によって経営危機に瀕していた神奈川歯科大学――。財政再建と組織の構造改革、教育システムの改革を断行すべく同大学理事長に同年12月に就任した鹿島勇氏の経営哲学は、常識の枠を超えた独自の世界観が貫かれている。本欄では、研究者から経営者として「攻め」の経営に挑む鹿島氏に、人材育成拠点として未来を見据えた大学の方向性についてうかがった。
鹿島:神奈川歯科大学(以下、当大学)は学校法人として歯学部、短期大学部(歯科衛生学科・看護学科)、東京歯科衛生専門学校を開校しています。加えて歯学部附属病院、横浜クリニック、羽田空港第1・第3ターミナル歯科、医科歯科連携の歯科・健脳クリニック日本橋(日本橋三越本店内)、本年4月にはシミックホールディングスとの連携によるBLUE FRONT SHIBAURAデンタルクリニックを開院し、10年・15年先を見据えた戦略としてインパクト投資を行っています。
その背景には2009年の大学不祥事によって、存続の危機に陥った教訓があったからです。喫緊の課題は財政再建であり、就任直後からマイナスのスタートでした。しかし、多くの教職員の協力と忍耐によって1年目で財政のV字回復を成し遂げることができ、財政再建と同時進行で新事業戦略の「先見性」によって大学のブランド化と価値を高めることができました。
歯科医療は、サイエンスとアートの組み合わせです。サイエンスに基づいて患者さんを治療する行為は、術者である歯科医師の感性が反映されるアート的作業といえるでしょう。そして治療した患者さんの口腔は術者の作品となります。一方、教育者が学生を教える時、教え方という感性が入ったアートであり、作品は学生です。そのサイエンスとアートそして作品間をつなぐインターフェイスが「美意識」であり、歯科医師は医療人であると同時に美意識をもったメディカルサイエンス・アーティストであらねばなりません。
生成AIの技術革新の波は、シンギュラリティが訪れる2035〜2045年までに3回来るといわれています。現在の性能とスピードは一波ごとに1,000倍ずつ向上し、3回目には10億倍に達することになります。そうなると、社会構造のみならず教育体系も激変することになり、知識や情報の格差はレッドオーシャン化するでしょう。その変化に対応するために必要な素養こそ、AIがもっとも不得意といわれる「感性」です。
そこで、教育現場ではリベラルアーツ教育に力を入れています。専門外の知識が不可欠であり、自分の感性をアップデートするには、自分の頭で考える力が必要です。感性を高める手段としての芸術や教養は、新たな価値創出のためのキーワードとなり、不透明で予測困難な時代を生き抜く術となるからです。
当大学は口腔を専門とする「メディカルサイエンス・アーティストを育成する機関」として、私は「感性」と「先見性」で先を見据えた経営に取り組みたいと考えています。