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2026年6月号掲載

~保険収載で広がる3次元プリンタの可能性~

【PR】 特別企画 デジタルデンチャーの活用法

※本記事は、「新聞クイント 2026年6月号」より抜粋して掲載。

 2025年12月、3次元プリント義歯用材料が期中導入され、令和8年度診療報酬改定においても3次元プリント有床義歯への評価が新設されました。これまで自費診療が中心だった3次元プリント総義歯が短時間でかつ保険で製作できるようになったことで、デジタル技術はこれからの臨床にますます必要不可欠な存在になることが予想されます。

 本欄では、デジタル技術を駆使した義歯分野に造詣の深い金澤 学先生(東京科学大学大学院医歯学総合研究科高齢者歯科学分野教授)に、デジタルデンチャーの現状と3次元プリント有床義歯におけるこれからの方向性についてお話をうかがいました。(編集部)

デジタルデンチャーが切り拓く
補綴治療の新しいカタチ

――令和8年度診療報酬改定において、3次元プリント有床義歯への評価が新設された背景について、歯科界の現状をふまえてご説明ください。

金澤:令和8年度診療報酬改定で新設された3次元プリント有床義歯への評価(1顎につき4,000点)は、歯科治療のデジタル化をさらに推進し、保険義歯における歯科医療提供体制を維持し続けるという国と歯科界(学会)との強い思いによって実現した結果だと考えています。

 歯科界においては昨今の歯科技工士不足もあり、保険の義歯を製作できる歯科技工所・歯科技工士が年々減少しています。その課題を解決するための1つとして、デジタル化の推進に期待が寄せられていました。また義歯製作は工程が多く複雑で、どうしても個人のスキルに依存しがちであり、クオリティの均質化が大きな課題としてありました(図1)。

図1  3次元プリント有床義歯の製作における一般的な診療の流れ(「3次元プリント有床義歯の診療指針」より引用・改変)。

次世代のデジタルのメリット
デジタル化がもたらす真の価値

――デジタル技術を活用することで、これまで複雑だった義歯製作工程の効率化と均質化が可能になると、今後デジタル化が加速されるのでしょうか。今回の保険収載によって臨床現場はどのように変化するのか、メリットについて教えてください。

金澤:義歯製作におけるデジタル化の最大のメリットは、「工数の削減」と「クオリティの均質化」にあります。モニタ上のCADでデザインした後、機器が形を作ることで、一定のクオリティが担保されます。納期短縮とクオリティの担保は、歯科医師と歯科技工士の双方、そして患者さんにとっても、大きな安心材料になります。

 また、今回の保険収載でいちばん期待している点は、これまでアナログだった口腔内の情報がデジタル化されることです。

 従来の義歯製作の過程では、シリコンやアルジネートといったアナログの印象採得後にスタディモデル(診断用模型)を製作・保管していたわけですが、歯科治療のデジタル化の推進の一環として今回の診療報酬改定においてIOS(口腔内スキャナ)による光学印象の対象も拡充されたように、デジタルデータなら保管場所も取りませんし、顎間関係の記録までデータが丸ごと保存できます。そのため万が一義歯が割れても、データがあるのですぐにコピー義歯が再製作できます。また、災害時における義歯の紛失や破損時、転居時の場合においてもデータさえあれば、迅速な再製作や修理が可能となります。さらには短期間での口腔機能の回復への対応が求められる病院歯科においても、大きな強みとなるでしょう(図2)。

図2 当講座で製作した3次元プリント有床義歯。

 そして、デジタル化は国も推進している医療DXの進展において重要な役割を果たすことが期待されているPHR(パーソナルヘルスレコード)の活用にもつながると考えています。将来的には、患者さんの健診結果や服薬状況、医療機関の受診歴などのデータを一元的に管理し、それこそ義歯の情報などを自分のスマートフォンで表示できる時代が到来するかもしれません。

従来型の義歯とはまったくの別物
求められる情報共有の必要性

――今回の保険収載は、有床義歯の新たな製作方法の導入を検討している歯科医師にとっては喜ばしいことかと思います。導入するにあたり、気をつけておくべき点などについて教えてください。

金澤:今回の保険収載は喜ばしいことではありますが、3次元プリント有床義歯製作において誤解してほしくないのは、今はまだ「ボタン1つで完璧な義歯が製作できる」という段階ではないということです。

 パソコンでデザインするCADのノウハウはもとより、デジタルプリントでレジン材料を積層する際のスピードや厚さなど、細かいパラメータやスキルを集積すること、プリント後の洗浄や後重合(ポストキュア)についてもメーカーの指示どおりに作業をしなければ、精度が落ちたり表面が未重合のままになったり何かしらのエラーやトラブルが発生する可能性があります(図3)。2次元でのCAD上のデザインは現物にしてみると違った形に感じることもありますし、人工歯の形も従来の加熱重合型義歯床用レジンのものとは異なります。材料によっては強度が低く、薄すぎると割れやすいといった特性もあります。現段階ではまだまだ作業者による製作ノウハウが必要なフェーズですので、今後臨床現場で遭遇するだろうトラブルも含めたトライ&エラーによる知識を共有し、皆さんでその意識を醸成していくことが不可欠と考えています。

図3 3次元有床義歯を製作する際の注意点。

義歯製作の新しい時代の幕開け
補綴治療全体の底上げへ

――最後に、読者の皆様へメッセージをお願いいたします。

金澤:私は講演時に、一流の歯科技工士が製作する義歯を「国宝」や「伝統工芸品」にたとえています。3次元プリント有床義歯を「民芸品」とたとえるならば、完全に置き換わることは、まだまだ遠い先の話ではありますが、今回の保険収載をはじめ歯科界にデジタル化が普及することによって品質が不十分な義歯が少なくなり、少しでも補綴治療全体の底上げにつながることを期待しています。

 超高齢社会の日本において、今回の3次元プリント有床義歯の保険収載は、まさに新しい時代の幕開けといえるでしょう(図4)。従来のものとまったく異なる義歯であることを理解したうえで、より加速度を増すデジタル化のメリットを前向きに捉え、トライ&エラーによるフィードバックを繰り返しながら歯科界の活性化を願っています。

図4 使用できる材料(2026年4月現在)。

――本日はありがとうございました。

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