2018年5月11日掲載
「口腔科学を楽しむ」をテーマに
第72回NPO法人日本口腔科学会学術集会開催
特別講演1「世界が注目するUmamiを用いた味覚障害・ドライマウス治療 ―歯科医療のブレークスルー―」(笹野高嗣氏、東北大名誉教授)では、増加する味覚障害者の原因のひとつに唾液分泌量の低下(ドライマウス)があり、甘味、塩味、酸味、苦味、うま味(Umami)の五味のうち、Umamiのもつ強い唾液分泌促進作用がその改善に有効であるとの研究成果を提示するとともに、大学病院における昆布の水出しを用いた唾液分泌改善の取り組みを紹介。口腔と全身の健康への寄与が期待されるUmamiの役割についてわかりやすく語り、聴衆の注目を集めていた。
特別講演2「第3次AIブーム時代におけるコンピュータ支援診断/検出(CAD)の現状と将来」(藤田広志氏、岐阜大特任教授)では、コンピュータ自らが学習するディープラーニングの時代を迎え、検出型から診断型、さらには先にコンピュータが病変の検出処理を行い異常がありそうな画像を見つけるFirst Reader型へと発展が期待されるなど、とくに医用画像分野におけるAI導入の現状や展望について紹介した。
シンポジウム「患者さんにベストな口腔がん診療を目指して」(座長:太田嘉英氏、東海大教授/鵜澤成一氏、阪大教授)では、まずイントロダクションとして太田氏が、患者によるQOLに基づく評価がキーワードではと提言し、切除手術、再建手術、放射線治療、薬物療法について、医師と患者の評価の不一致の問題について考える場とする趣旨を説明。
切除手術について横尾 聡氏(群馬大教授)は、原発巣切除は当たり前で、機能温存と美容・整容性に配慮した手術は可能であり、医療者として社会復帰まで含めたトータルのコンセプトで行うことの重要性を強調した。
再建手術について去川俊二氏(埼玉医大国際医療センター)は、現状限界のある再建手術においては、患者のQOL評価を良くすることを目指す前に、まずは患者にとって最高の術後機能を出すために自分のできうるベストな選択をするべきではと述べた。
三浦雅彦氏(医歯大教授)は、形態が温存されても機能への影響、とくに晩期には重篤な機能障害が起こりうる放射線治療における患者のQOLについて考察した。
根治不能な20代のがん患者への症例をもとに抗がん薬物療法の中止について述べた石橋美樹氏(大阪国際がんセンター歯科)は、その意思決定において患者と医療者の関係、医療者の考え、患者の環境など様々な要素が関連すると語り、多面的な評価の必要性を訴えた。
質疑応答では会場からも多数の質問が寄せられ、活発な議論が繰り広げられるなど、現場の関心の高さがうかがわれた。
次回第73回学術集会は、きたる2019年4月20日(土)、21日(日)の2日間、ウェスタ川越(埼玉県)において開催予定となっている。