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2018年11月3日

「第3回有床義歯学会学術大会」開催

「JPDA『義歯難症例』の頂に挑む」をテーマに

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 さる11月3日(土)、東京歯科大学血脇記念ホール(東京都)において、第3回有床義歯学会学術大会(有床義歯学会〔Japan Plate Denture Association、以下JPDA〕主催、亀田行雄会長)が開催された。本大会は、2016年4月にスタディグループ「JDA〔Japan Denture Association〕」から改組のうえ発足したJPDAにとって3回目となる学術大会。会場には全国各地からはもちろん、台湾から来場したグループも含めおよそ300名が参集。3回目となる今回も前回同様の注目度がうかがえた。以下に、演者・演題とその概要を示す。

1)「CAD/CAMを使用したデンチャー製作の可能性」(今田裕也氏、歯科技工士・協和デンタルラボラトリー)
 本演題では、演者の勤務する歯科技工所で使用しているCADソフトウェアの紹介、また最近の新入社員に対してはCAD/CAMの教育が必須であること、そして同歯科技工所での作業の56%がCAD/CAMを経由するものとなっていることを示した上で、CAD/CAMによる総義歯の製作過程について紹介。旧義歯を用いて咬座印象を行ったものをラボ用スキャナーでスキャンし、そこから人工歯排列、歯肉形成、完成に至るまでの流れについて詳説した。また、CAD/CAMを用いた総義歯製作は口腔内の位置関係を数値化できることが最大の利点としつつ、歯肉形成については自動化が不十分で、今後の課題であるとした。

2)「有床義歯とオーラルフレイル」(鈴木宏樹氏、歯科医師・篠栗病院)
 本演題では、フレイルと口腔機能の関連、残存歯数が多いほどフレイルに陥りにくいことについて各種論文を基に示したうえで、噛める総義歯によってもフレイルが改善できる可能性について自験例をもとに検証。認知症患者に対し、旧義歯の咬合調整を行いフルバランスドオクルージョンを与えることで徐々に咬合力が回復し、同時に会話や歩行までが可能になった一例を示すことで、総義歯のもつ可能性について示した。また、総義歯は製作すれば終わりということではなく、装着後のトレーニングが重要であることも強調した。

3)「総義歯難症例の分類と考え方」(松丸悠一氏、歯科医師・コンフォート入れ歯クリニック)
 本演題では、総義歯の患者満足について患者側の要因、術者側の要因、そして技工側の要因について大別したうえで、それぞれの用途について検証。難症例に対するアプローチとしては、質の高い義歯を製作したうえで、時間軸を用いて問題点の抽出・解決・説明を行うことが重要であるとし、症例とともに詳説した。

4)「咬合不安定症例」(岩城謙二氏、歯科技工士・Dental Labor IDT)
 本演題では、BPS(Biofunctional Prosthetic System、Ivoclar Vivadent)を基に演者が開発した「BPS エステティックデンチャー」、およびそれを補完するシステムとしての「e Dentiure システム」について紹介。咬合が不安定な症例に対し、従来のフラットテーブルを用いた治療用義歯を用いてもなお顎位が定まらない症例などに対する本法の有用性について訴えた(詳細は「QDT」2018年11~12月号を参照)。

5)「コンビネーションシンドローム症例」(遠藤義樹氏、歯科医師・岩手県開業)
 本演題では、ケリーのコンビネーションシンドロームの病因・病態について文献を基に示し、良質な義歯によっても回復は難しいことが多いとした上で症例を提示。治療用義歯装着からのリライン、ティッシュコンディショニング、装着後の咬合調整などについて詳説した。とくに、治療用義歯の活用と臼歯部の咬合の回復がポイントであるとした。

6)「前方開き顎間関係症例」(斎藤善広氏、歯科医師・宮城県開業)
 本演題では、顎間関係が著しいClass3で、ACP(The American College of Prosthodontists)による無歯顎患者の症型分類でもClass4に分類される条件の厳しい前方開き顎間関係症例を提示。これを基に、基礎をふまえたていねいな印象採得、咬合の付与を行うことで最大限に機能回復を図るまでの過程を示した。また、前方開き顎間関係症例で問題となる上顎義歯の前方への移動について、前鼻棘の利用、口唇翻転部の利用、そして咬合付与による対応法を示した。

7)「フラビーガム症例」(佐藤勝史氏、歯科医師・山形県開業)
 本演題では、フラビーガム症例に対する複合的なアプローチを提示。口輪筋の活用、義歯の移動をできるだけ少なくすること、鼻下部で上顎前歯部の沈み込みを少なくすること、交叉咬合の活用、弾性裏装材による耐圧面積の確保、折れ曲がったフラビーガムを立ち上げること、などについてそれぞれ分かりやすく解説した。

8)「高度顎堤吸収のクラスIII無歯顎症例」(亀田行雄氏、歯科医師・埼玉県開業/須藤哲也氏、歯科技工士、Defy)
 本演題は、上下顎フルマウスの固定性インプラント補綴装置をすべて撤去した既往があり、なおかつ患者の要求が高度なうえにインプラントによる再治療が困難であった症例に対するケースプレゼンテーション。上顎は全部床義歯、下顎は患者とのラポールが形成されたうえで、診査・診断を経て2インプラントによるインプラントオーバーデンチャーとなるまでの過程を、チェアサイド・ラボサイドの視点からそれぞれ示した。

9)「下顎総義歯の吸着印象」(阿部二郎氏、歯科医師・有床義歯学会名誉会長/小久保京子氏、歯科技工士・エースデンタル)
 本演題では、東京都調布市の阿部氏の歯科医院にモデル患者を招き、阿部氏と小久保氏、および阿部和子氏(歯科衛生士・阿部歯科医院)による印象採得のデモンストレーションのインターネット回線による生中継が行われた。内容は2時間あまりにわたり、これまで阿部氏が世界各国で伝えてきた「下顎総義歯吸着理論」のための概形印象採得、セントリックトレー(Ivoclar Vivadent)を用いた仮の咬合採得、ナソメーターM(Ivoclar Vivadent)を装着した個人トレーの製作やゴシックアーチトレーシング、精密印象採得までがきわめてていねいに解説され、たいへん好評となっていた。

 この他、会場では「e-ポスター」(紙のポスターではなく、液晶ディスプレイにポスターの内容を表示させて展示するもの)4題も提示され、あわせて好評となっていた。なお、第4回学術大会はきたる2019年12月に予定である。