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2019年5月16日

日本補綴歯科学会第128回学術大会開催

「補綴歯科の挑戦と進化」をテーマに

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 さる5月10日(金)から12(日)の3日間、札幌コンベンションセンター(北海道)において、日本補綴歯科学会第128回学術大会(横山敦郎大会長、市川哲雄理事長、以下、補綴学会)が開催された。今回のメインテーマは、前回に引き続き「補綴歯科の挑戦と進化」。例年の6月開催とは異なる5月開催ながら、会場には2,000名以上が詰めかける盛況となっていた。以下に、主要な演題の中から5題の概要を示す。

(1)理事長講演「歯科補綴学の本質を探究する」(大川周治氏〔明海大歯学部機能回復学講座歯科補綴学分野〕)
 今回の理事長講演には、2019~2020年度の理事長候補となっている大川氏が登壇。自身の任期における補綴学会のテーマを「食力向上による健康寿命の延伸」であるとし、これについて詳説。食力とは捕食、咀嚼し嚥下する力すなわち食べる力そのものであり、これを補綴治療によって推進するとともに見える化、数値化することによって補綴治療の質の評価を行うことが重要であるとした。また、学術大会と社会連携、Journal of Prosthodontic Researchと国際連携、災害医療における歯科の役割、補綴歯科専門医の広告開示に向けてなど、補綴学会が今後注力していく7分野についてそれぞれ展望を述べた。

(2)シンポジウム2「補綴学的、歯周病学的観点から見た連結・非連結」(鷹岡竜一氏〔東京都開業〕、木原優文氏〔九大大学院歯学研究院口腔機能修復学講座〕、馬場俊輔座長〔大歯大口腔インプラント学講座〕、松下恭之座長〔九大大学院歯学研究員口腔機能修復学講座〕)
 本シンポジウムでは、鷹岡氏が「固定効果と術後対応の間で」、木原氏が「連結・非連結における補綴的戦略」と題して講演。まず鷹岡氏は、基本的に連結は行わないが、連結することで歯周組織が改善する場合もあるためその見極めが大切であるとし、カリエスタイプとペリオタイプにおける連結、コーヌスクローネによる二次固定などの症例を多数提示。臨床家の立場から連結・非連結の選択の奥深さを示した。また木原氏は、クラウン・ブリッジの支台歯を連結することで動揺は抑えられるが、何よりも二次う蝕などを生じさせない補綴の精度が重要であること、フルアーチの連結も効果は見込めるが、より短いスパンの連結よりも効果的かどうかは不明なこと、またパーシャルデンチャーの支台歯となる歯の連結は、遊離端欠損の場合には推奨される、などについて文献および症例を基に示した。

(3)シンポジウム3「認知症の現状、補綴歯科治療と今後の研究展開」(眞鍋雄太氏〔医師・神歯大認知症・高齢者総合内科〕、上田貴之氏〔東歯大老年歯科補綴学講座〕、木本克彦氏〔神歯大大学院歯学研究科口腔統合医療学講座〕、佐々木啓一座長〔東北大口腔システム補綴学分野〕、笛木賢治座長(医歯大部分床義歯補綴学分野)
 本シンポジウムでは、眞鍋氏が「認知症462万人時代の実際」、上田氏が「高齢者の認知機能と口腔機能」、そして木本氏が「咀嚼と認知症に関する研究レビューと今後の研究展開」と題してそれぞれ講演。眞鍋氏は認知症の分類や、それを診断する医師のスキル・属性の問題、および医科と歯科での共通言語の欠落(認知機能評価や神経学的所見などについて、医科と歯科で異なる基準を用いていることなど)などについて、医師の立場から問題提起を行った。続いて上田氏は、口腔機能低下症において重要になる検査が、認知症の患者では実施できない問題点などについて提示。今後改善されるべき問題点として、(検査の)安全性、実施可能性、信頼性、などについて述べた。また、認知症患者に対する歯科治療の各種ガイドラインについてはいずれもエビデンスが乏しいとし、今後の基準作成が急務であるとした。そして最後に登壇した木本氏は、咀嚼と認知機能に関する報告が1990年代から右肩上がりに増加していることを示したうえで、それでも口腔機能と認知症に関するエビデンスは不足しており、認知症専門医と歯科医師の連携も不足していることを指摘した。

(4)臨床リレーセッション2「部分床義歯の力学を再考する ~天然歯を守るインプラント支持の活かし方~」(山下秀一郎氏〔東歯大パーシャルデンチャー補綴学講座〕、大久保力廣氏〔鶴見大歯学部有床義歯補綴学講座〕、中居伸行氏〔京都府開業〕、安部友佳氏〔昭和大歯学部歯科補綴学講座〕、古谷野 潔座長〔九大大学院歯学研究院口腔機能修復学講座〕、若林則幸座長〔医歯大部分床義歯補綴学分野〕)
 本セッションでは、「残存歯の保護を第一とした動かない義歯」と題して山下氏が、「インプラント支持を利用したパーシャルデンチャーの考え方と設計」と題して大久保氏が、「従来型部分床義歯の限界とオーバーデンチャータイプの可撤性部分床義歯の可能性」と題して中居氏が、そして「IARPDのエビデンスに基づく治療オプションの考察」と題して安部氏が講演した。山下氏は演題に示す部分床義歯を実現するための設計について、天然歯支台、インプラント支台それぞれに共通する基本的な要素を示した。また、支持、把持、維持の順番で設計する中で、教科書にはないような形態の支台装置ができることは必然であり、それぞれの症例に応じた設計を行うことが必要であるとした。また大久保氏は、インプラント支台の部分床義歯を示す用語が多数あり、混乱をきたしているとして「Implant Retained Partial Denture(IRPD)」への統一を提案したうえで、その適応症、インプラントの埋入位置、上部構造(部分床義歯)の設計、さらに15年が経過した臨床例を提示した。また中居氏は、2、3歯に限局した下顎遊離端欠損と、短縮歯列の範疇を超える両側遊離端欠損について、天然歯支台のパーシャルデンチャーとIRPDそれぞれの適応と限界、および各種文献を基にした選択のポイントなどについて述べた。そして安部氏は、力学的な基礎研究から患者立脚型アウトカムを用いた臨床研究まで、最新の研究データを交えながらIRPDのエビデンスを提示し、部分欠損症例の治療オプションについて総合的に示した。

(5)シンポジウム6「口腔内スキャナーの臨床」(星 憲幸氏〔神歯大大学院歯学研究科口腔統合医療学講座補綴・インプラント学〕、高場雅之氏〔昭和大歯学部歯科補綴学講座〕、米澤 悠氏〔岩手医科大歯学部補綴・インプラント学講座〕、疋田一洋座長〔北海道医療大歯学部口腔機能修復・再建学系デジタル歯科医学分野〕、近藤尚知座長〔岩手医科大歯学部補綴・インプラント学講座〕)
 本シンポジウムでは、星氏が「クラウンブリッジ治療における口腔内スキャナーの臨床応用」、高場氏が「インプラント治療における口腔内スキャナーの活用」、そして米澤氏が「有床義歯治療における口腔内スキャナー応用の現状と仮題」と題してそれぞれ講演。星氏は標題に関し、ケースセレクション、印象採得前のポイント、印象採得中のコツ、(光学印象に)向いているケースと向いていないケース、臨床例、そして神奈川歯科大学デジタル歯科診療科の取り組みについて示した。とくに「デジタル歯科診療科」ではデジタル印象採得の段階から専任の歯科技工士と歯科衛生士がチェアサイドに立ち会い、患者のコンサルテーションやTBIを含めた、印象採得だけではない口腔内スキャナーの活用例について示した。また高場氏はインプラント治療における口腔内スキャナーの活用ということで、天然歯よりも口腔内スキャナーへの親和性は高いが、スキャン範囲が広範囲になると誤差が大きくなること、歯肉縁下深いインプラントの場合には歯肉の干渉を避けるべきこと、また口腔内スキャナーによる咬合採得においては噛みしめの強度によって結果が変化するといった点に注意を促したうえで、そのメリットについても述べた。そして米澤氏は、かねてより困難さが指摘されている口腔内スキャナーによる粘膜面の印象採得と、それを基にした義歯製作の可能性について提示。現状、口腔内スキャナーを用いても非可動粘膜であれば模型用スキャナーと大差ない精度が得られ、その一方で義歯の辺縁部となる可動粘膜周囲や小帯部では再現性が低いとした。そして、こうした課題をふまえたうえで実際に口腔内スキャナーによる印象採得から3Dプリンターによって総義歯と即時義歯を製作した症例を提示。そのうえで、今後もこの分野はスキャナーの改良と術者のアイディアによって進化が見込まれるとした。

 この他、会場では時宜に即した各種セッション・シンポジウム・一般口演・ランチョンセミナーなどが活発に行われ、いずれも盛況であった。なお、次回の第129回学術大会は九州大学を主管校に、きたる2020年6月26日(金)から28日(日)にかけて福岡国際会議場(福岡県)で開催予定とのこと。