Quint Dental Gate 歯科のコミュニケーションサイト

文字サイズ
標準
特大

トピックス


2019年10月27日

「歯科医が感染症医となる日」セミナーが開催

歯周病と糖尿病・認知症の関係について最新知見が共有される

ログインされますと、関連書籍が表示されます。
会員でない方はこちら
(※関連書籍がないトピックスは表示されません)

 さる10月27日(日)、ビジョンセンター新宿(東京都)において、日本アンチエイジング歯科学会主催のセミナー「歯科医が感染症医となる日」が開催された。医科歯科連携の3大トピックスである歯周病、糖尿病、認知症について、医師2名・歯科医師2名が登壇し、歯周病を全身感染症として捉えるための最新知見を披露した。歯科医師を中心に200名が参加し満席となる盛会であった。

 同会会長の松尾 通氏の開会の辞のあと、まず登壇したのは辻村 傑氏(神奈川県開業、IDHA国際歯科衛生士学会会長)。「口腔―腸 マイクロバイオーム相関から見える未来」と題し、これからの予防歯科には患者の口腔細菌叢(マイクロバイオーム)の把握とコントロールが必要であることを述べた。

 氏によれば、歯周ポケットなど従来の病巣局所への対応で改善が見込めるのは約8割。残り2割のいわゆるハイリスク患者には、口腔細菌叢のバランスを整えるアプローチが求められる。実際、氏の医院に通う患者に対し、口腔細菌の遺伝子解析を行いクラスター分析したところ、一部の細菌が多すぎたり少なすぎたりするのではなく、細菌の多様性が「ほどよい」患者ほど歯周組織の健康状態が良いとの結果が得られた。

 続いて、西田 亙氏 (医師、愛媛県開業、糖尿病専門医)が登壇。「なぜ歯周病菌は、糖尿病やアルツハイマー病を引き起こすのか?」と題し、歯周病と糖尿病や認知症、早産の関係について、医科からの注目点を軸に解説した。


 歯周基本治療というと、歯周ポケット内のプラーク除去というイメージがあるが、医科からすれば「炎症の消退」をとおして全身の健康に寄与するものである。また、脳の海馬からPg 菌(Porphyromonas gingivalis )が検出されたことや、肝臓・心臓・腎臓に歯周病原性菌が浸潤している病理解剖症例が存在することを例に挙げ、歯科治療の重要性を強調した。

 そのほか、イヌの歯周病原性菌として知られるPorphyromonas gulae が飼い主の口腔からも検出されていることや、「年4回以上の歯科通院で、糖尿病の医療費と入院回数は4割減少する」「年4回以上の歯科通院で、出産時の追加医療費が1/4に抑えられる」といった患者にもインパクトのある情報が提示された。

 昼の休憩をはさんで「歯科でできる糖尿病療養指導」の演題で原瀬忠広氏(愛媛県開業、愛媛県糖尿病協会理事)が講演。糖尿病について基礎知識の確認がなされた。

 氏は、「糖尿病の定義は『インスリン作用不足による慢性の高血糖状態を主徴とする代謝疾患群』、つまりホルモンの病気であり、歯周病の場合は、炎症によって生まれるサイトカインが影響する。サイトカインの作用により、血糖を下げる唯一のホルモンであるインスリンのはたらきが低下する(歯周病で膵臓からインスリンが分泌されなくなるわけではない)」と述べた。今月発表された「糖尿病診療ガイドライン2019」(日本糖尿病学会)でも、「歯周治療は血糖コントロール改善に有効か?」の問いに推奨グレードは「A」で、ほぼすべての患者に必要と評価されているという。

 その後、「認知症専門医が教える! 脳の老化を止めたければ歯を守りなさい!」と題して長谷川嘉哉氏(医師、岐阜県開業、認知症専門医)が登壇。氏は、神経内科医でありながら院内に歯科用ユニットを導入し、専属の歯科衛生士を採用して、認知症患者に口腔ケアを行っている。演題と同名の書籍はベストセラーになっているが、今回の講演では、認知症の知識と歯科で気づける初期症状について述べた。

 認知症の原因は単一ではないため、結核のように結核菌を殺せばいいというものではなく、脳の萎縮や脂質運搬にかかわる遺伝子など、30強の要因が絡み合っているという。歯周病と同じく早期発見・早期治療が重要だが、そのためには幻覚や被害妄想などの周辺症状が出る前、初期の段階で気づくことが求められる。歯科を訪れる患者さんには、今までできていたのに「待合室で自分の番を待つことができなくなった」「アポイントメントを忘れるようになった」ということが要注意ポイントと述べた。

 口腔ケアがもたらす認知症患者への影響としては、ごく初期の進行レベルであるなら、意欲の向上、歯みがきに積極的になる、歯科への定期受診。周囲には認知症とわからない中核症状レベルであるなら、口臭の軽減、物忘れの改善、MMSE(認知症のスクリーニング検査)のスコアの改善。幻覚や被害妄想などが出ることもある周辺症状レベルであるなら、介護抵抗の改善。認知症末期の寝たきりレベルであるなら、経口摂取の増加、誤嚥性肺炎の予防、歯肉の状態の改善がみられるという。

 4人の演者が講演したあとは、西田氏があらためて登壇した。「歯医者さんは美口の神社」の題で、「頭髪にかける費用は年4万2000円。でも歯科にかける費用は年6900円ぽっち(西田氏調査)」「(歯ぐきの)縁の上は自分で、縁の下は歯医者さんで」など、患者さんにアピールする伝え方の例が披露された。

 最後にはシンポジウムで演者への質疑応答がなされ、坂本紗有見氏(東京都開業、日本アンチエイジング歯科学会常任理事)の挨拶で閉会となった。