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2020年6月27日

日本補綴歯科学会第129回学術大会、誌上&Web形式で開催

「食力向上による健康寿命の延伸:補綴歯科の意義」をテーマに

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 さる6月26日(金)から28日(日)の3日間、日本補綴歯科学会第129回学術大会(古谷野 潔大会長、大川周治理事長、以下、補綴学会)が開催された。今回は九州大学歯学部を主管校に、福岡国際会議場(福岡県)において開催される予定であったが、昨今の新型コロナウイルス感染症の影響を受けて誌上&Web開催となった。当日はWeb開催にもかかわらず、一部の演題を除いてほとんどの演題が予定どおりのスケジュールでリアルタイムに配信され、主管校および関係者の尽力が垣間見える大会となっていた。以下に、主要な演題の中から5題の概要を示す(以下、講演時間順)。

(1)シンポジウム6「欠損歯列における咬合再構成─適正な咬合高径をどのように求めるか─」(渋川義幸氏〔東歯大生理学講座〕、山下秀一郎氏〔東歯大パーシャルデンチャー補綴学講座、座長兼演者〕、小出 馨氏〔日歯大新潟生命歯学部歯科補綴学第1 講座〕、佐々木啓一座長〔東北大大学院歯学研究科口腔機能形態学講座口腔システム補綴学分野〕)

 本シンポジウムでは、渋川氏が「下顎運動の末梢性・中枢性神経制御機構と下顎位」、小出氏が「適正な機能的下顎位を求める」、そして山下氏が「部分欠損歯列における適正な咬合高径とは」と題してそれぞれ講演。渋川氏は基礎的な立場から、下顎運動を制御する末梢性・中枢性神経機構について概説。下顎位の解剖学的要素や機能的要因、顎関節に存在する感覚受容器から考える咬合高径の再構成、神経-筋機構としての反射性調節、顎関節症患者にみられる視覚誘導性運動統合機能の失調などについて示した。また小出氏は、咬合高径の決定法として形態的根拠と機能的根拠の2点を挙げ、それぞれについて過去から現在にわたり臨床で用いられてきた方法を列挙。また、再現性の高い咬合高径決定法として、閉口時の口唇接触位と上唇赤唇部の面積を用いる方法について示した。そして山下氏は、部分欠損症例を基に「咬合再構成は咬合挙上だけを考えるのではない」「咬合再構成の手順について」「咬合挙上の許容範囲を考える 顆頭安定位の観点から」を軸に解説。セファログラムの活用などについても示しながら、部分欠損症例における咬合高径を客観的に評価するための基準について示した。

(2)シンポジウム4「口腔内スキャナーを使いこなすために知っておくべき基礎知識」(堀田康弘氏〔昭和大歯学部歯科保存学講座歯科理工学部門〕、高橋英和氏〔医歯大大学院口腔機材開発工学分野〕、木村健二氏〔協和デンタルラボラトリー〕、疋田一洋座長〔北海道医療大歯学部口腔機能修復・再建学系デジタル歯科医学分野〕、中村隆志座長〔大手前短期大歯科衛生学科〕)

 本シンポジウムでは、「口腔内スキャナーに使われる三次元光計測法の基礎知識」と題して堀田氏が、「口腔内スキャナーの種類と特徴」と題して高橋氏が、そして「アナログ技工とデジタル技工の違い」と題して木村氏がそれぞれ講演。堀田氏は演題のとおり、口腔内スキャナーおよびラボ用スキャナーに用いられてきた三次元光計測法の基礎知識について解説。中でも口腔内スキャナーは、三角測量法と構造化光の組み合わせが基本であるとし、各種方法の特徴について示した。また、2019年に制定された歯科用スキャナーの評価に関する国際規格(ISO20896-1:2019)などについても示された。また高橋氏は、現在日本国内で入手できる口腔内スキャナー8種について7台の実機を用いて実際の使用感を動画で示し、また得られたSTLデータのポリゴン画像も提示した。そして木村氏は歯科技工士の立場から、データのみで補綴物製作を受注する場合の注意点、自らが経営する歯科技工所のデジタル率の変化(2020年3月時点では、受注の13.4%が口腔内スキャナーからのデータであるとのこと)、各種装置ごとのデータ種類(拡張子)の違い、そして歯科技工所として「困るデータ、助かるデータ」の条件などについても述べた。

(3)シンポジウム7「IODのニューエビデンス」(金澤 学氏〔医歯大大学院医歯学総合研究科高齢者歯科学分野〕、中居伸行氏〔京都府開業〕、永田省藏氏〔熊本県開業〕、大久保力廣座長〔鶴見大歯学部有床義歯補綴学講座〕、田中譲治座長〔千葉県開業〕)

 本シンポジウムでは、「IOD とIARPD の最新エビデンス」と題して金澤氏が、「Value-Based Dentistry コンセプトに基づくIOD治療」と題して中居氏が、そして「欠損歯列の流れを考慮した歯列の改変とインプラントの適用」と題して永田氏がそれぞれ講演。金澤氏は標題のとおり、2000年以降の臨床研究を中心に約200本の文献をレビュー。基本となる下顎の2-IODのインプラント埋入位置、1-IODの場合のアウトカム、ミニインプラントを用いた場合の生存率、そしてアタッチメントの選択などについてわかりやすく示した。また中居氏は、Kokaら(2019)が近年提案している「Value-Based Dentistry(VBD)」を基に自らの臨床例を提示。「生物学的コストを下げたケース」「心理的・経済的コストを下げたケース」「時間的コストを下げたケース」などを基に、VBDの実践例とそこで必要になる「引き出しの多さ」について示した。そして永田氏は、欠損歯列の終末におけるインプラントの応用、またCummer分類を軸に7症例を提示。豊富な臨床経験から、歯列の予後を推測しつつ補綴設計や治療のありかたを策定・修正していく必要性とその過程を示した。

(4)シンポジウム9「補綴歯科治療におけるデジタルワークフローの到達点 ─残された問題点とその解決策を探る─」(丸尾勝一郎氏〔東京都開業〕、新保秀仁氏〔鶴見大歯学部有床義歯補綴学講座〕、植松厚夫氏〔東京都開業〕、正木千尋座長〔九歯大口腔再建リハビリテーション学分野〕、横山紗和子座長〔昭和大歯科補綴学講座〕)

 本シンポジウムでは、「固定性補綴治療におけるデジタルワークフローの到達点と課題」と題して丸尾氏が、「有床義歯分野における3D プリンタの活用」と題して新保氏が、そして「補綴治療計画立案に対するデジタル化の応用」と題して植松氏がそれぞれ講演。丸尾氏は天然歯を対象とした場合とインプラントを対象にした場合、それぞれのメリットと注意点について示したうえで、現在の到達点として作業の効率化や従来法と同等の精度、またチェアタイムの短縮や患者の不快感の低減などを挙げた。また今後の課題としては、デジタルに対応した支台歯形成や印象採得に関する学部での教育面、歯肉縁下深い場合の精度、ロングスパン症例の場合の精度などの改善が求められるとした。また新保氏は、CAD/CAMを用いた有床義歯製作のワークフローをまず提示。印象採得だけは錬成印象材を使用する必要があるが、それ以降の工程ではデジタル化を図ることができることを示した。また、義歯床や人工歯の製作における、ミリング法と3Dプリントの利点・欠点を提示し、クラウン・ブリッジと比較してサイズの大きい技工物を制作する有床義歯の分野での3Dプリンターの優位性について示した。さらに、3Dプリンターの利点とミリングマシンの利点を組み合わせた「ハイブリッド加工」についても示された。そして植松氏は、「Usefulness of Digital Virtual Models」と「Digitally Guided Oral Rehabilitations」の2つのキーワードを提示。前者では、口腔内スキャナーとCTのデータを組み合わせた「Digital Virtual Models」を用いた補綴・修復治療の実例を、また後者ではそれをより進化させ、顎運動を取り込むことで咬合平面の設定や中心位での咬合状態の確認、プロビジョナルレストレーションでの顎位の設定などに活用した実例を示した。

(5)シンポジウム12「ジルコニアはホントに最高?」(伴 清治氏〔愛院大歯学部歯科理工学講座〕、山下恒彦氏〔デンテックインターナショナル〕、小濱忠一氏〔福島県開業〕、細川隆司座長〔九歯大口腔再建リハビリテーション学分野〕、三浦宏之座長〔医歯大摂食機能保存学分野〕)

 本シンポジウムでは、「歯科用ジルコニア 最高の特性のつくり方」と題して伴氏が、「デジタルジルコニアインプラント補綴:その真実と神話」と題して山下氏が、そして「マテリアル選択の基準」と題して小濱氏がそれぞれ登壇。伴氏は冒頭で「ジルコニアは最高に近づいているが、作りかたが大事」とした上で、ジルコニアの「透光性を最高にするために」「機械的耐久性を最高にするために」「化学的耐久性を最高にするために」「対合歯の摩耗を最小にするために」「プラーク付着を最小にするために」「上皮付着を最高にするために」の6点について解説。材料選択の基準や、ジルコニア表面の鏡面研磨がいずれの場合にも必須であることなどが示された。また山下氏は、ジルコニアを応用したインプラント上部構造製作時の注意点について、ジルコニアモノリシック構造のアバットメントの破折の危険性およびチタンベースとの併用(ハイブリッドデザイン)の必要性、ジルコニアモノリシック上部構造に対するカラーリングの注意点、また口腔内のインプラントの位置を正確に記録するVerification Jigの重要性などについて、長年にわたる技工経験から示した。そして小濱氏は、前歯部と臼歯部におけるマテリアルの使い分け、二ケイ酸リチウムとジルコニアの比較、変色支台歯への対応、そしてモノリシックレストレーションが全盛となる中においても、特に審美性が要求される症例では長石系陶材を築盛したジルコニアセラミックスやプレスセラミックスに一日の長があるとした。

 その他、Web上では時宜に即した各種シンポジウムや課題口演、およびeポスター展示が行われた。なお、次回の第130回学術大会は東京医科歯科大学を主管校に、神奈川県横浜市において2021年6月に開催予定とのこと。