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2020年12月13日

第5回 有床義歯学会学術大会開催

「吸着義歯成功に向けて Suction Dentureの基礎を究める」をテーマに、2020年12月31日までオンデマンド配信中

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 12月13日(日)から12月31日(木)にかけ、有床義歯学会(亀田行雄会長、以下、JPDA)による第5回 有床義歯学会学術大会が、同学会Webサイト内でオンデマンド配信されている。本大会は、2016年4月にスタディグループ「JDA〔Japan Denture Association〕」から改組のうえ発足したJPDAにとって5回目となる学術大会。今回は「吸着義歯成功に向けて Suction Dentureの基礎を究める」をテーマに、6パートに分かれ7名が登壇している。以下に各パートの概要を示す。

 1)「吸着義歯の診査・診断 ~舌下ヒダ部の対処法を整理する~」(永田一樹氏〔山形県勤務〕、佐藤勝史氏〔山形県開業〕)
 前半ではまず、永田氏が(1)吸着義歯の基本形態、(2)吸着義歯の診査・診断、(3)舌下ヒダ部の特徴、(4)舌下ヒダ部吸着阻害因子の対処法、について解説。そのうえで、臨床のヒントとして下顎総義歯の吸着の鍵となる舌下ヒダ部の診査は軽く閉口させた状態で行うことや、舌下ヒダ部の組織が不足する症例における個人トレーの改変法などについて示した。続けて後半では、阿部二郎氏(東京都開業、有床義歯学会名誉会長)が発表したチェックシート「下顎総義歯の診査項目」を基に、佐藤氏が下顎総義歯吸着の阻害因子について解説。解剖学的阻害因子と下顎位による阻害因子について概説した(本チェックシートは[関連書籍]の「下顎総義歯吸着テクニック ザ・プロフェッショナル」17ページに掲載)。

 2)「Suction Dentureを成功させるための概形印象」(大滝絵梨花氏〔東京都勤務〕、山崎史晃氏〔富山県開業〕)
 前半ではまず、大滝氏が(1)SEMCD(編注:Suction Effective Mandibular Complete Denture、下顎吸着総義歯の略称)のコンセプトを理解する、(2)SEMCDのメリットを理解する、(3)概形印象のテクニック、(4)各個トレーの外型線、(5)歯科技工士との連携、について解説。筋肉を標的とした術者主導の印象採得を行うのではなく、口腔内の粘膜に着目して無圧的に概形印象採得を行うSEMCDのコンセプトに従い、完成義歯の吸着のための「仕掛け」がなされた各個トレーを製作するための概形印象採得法について示した。続けて後半では、山崎氏が概形印象採得の術式について補足。トレーの試適や、口腔内に印象材をシリンジで注入する際のポイント、また口腔前庭をしっかり目視してトレーを位置づける、といった実践的なアドバイスを示した。また、山崎氏が現在取り組んでいる3Dプリンターによるデジタル総義歯の製作についても触れた(デジタル総義歯に関しては「QDT」2021年3月号に掲載予定)。

 3)「SEMCDを極める ~精密印象~ 私が気をつけているKey point」(北條幹武氏〔東京都勤務〕、相澤正之氏〔東京都開業〕)
 前半ではまず、北條氏が(1)精密印象前日までの事前準備、(2)精密印象当日、直前のチェック、(3)閉口機能印象のポイント、(4)一次印象から二次印象への移行、について解説。SEMCDコンセプトにおいて、下顎各個トレーに必要とされる「7つの仕掛け」や、印象採得当日の適合試験材を用いた試適と調整、閉口機能印象時の5つの基本動作などについて示した。続けて後半では、相澤氏が各個トレーやシリコーン印象材の取り扱いに関して詳説。トレー辺縁部への印象材の築盛法や一次印象のトリミング法、また一次印象と二次印象でトレーの位置を確実に合わせることの重要性や、トレー挿入後は12時の位置に立ち両手で均等にトレーを圧接することなど、多くのヒントが示された。

 4)「咬合採得 ~とくにゴシックアーチについて~」(道振義貴氏〔富山県開業〕、齋藤善広氏〔宮城県開業〕)
 前半ではまず、道振氏が「最適な咬合高径を見つけ、適切な水平的下顎位を与えることが確実な総義歯製作のためにもっとも必要」とした上で、水平的下顎位決定におけるゴシックアーチ採得法の位置付けやスプリットキャスト法との併用による精度の確認、またアペックスとタッピングポイントの距離がもつ意味などについて解説。そのうえで、アペックス-タッピングポイントの距離とゴシックアーチスコア(齋藤氏が考案した、ゴシックアーチ描記図の定量的評価法)による数値化により、おおまかに顎関節の器質的・機能的な状態を評価することが可能である、などとした。続けて後半では、齋藤氏が臨床面を補足。ゴシックアーチの臨床での実際について、自ら提唱する「さいとう式ゴシックアーチ」の手順について多くの動画とともに解説し、明日からの臨床に役立つ構成としていた。

 5)「等脚台形を用いた人工歯排列―ClassⅢへの対応―」(平栗布海氏〔歯科技工士・平栗デンタルサービス〕、亀田氏〔有床義歯学会会長、埼玉県開業〕)
 前半ではまず、平栗氏が等脚台形法(1997年に大野健夫氏〔歯科技工士・白山デンタルラボラトリー/白山総義歯研究所〕が考案した、無歯顎患者の上顎において、本来天然歯があったアーチフォームを考察するための方法)の概要を示した上で、SEMCDにおける吸着を実現できる人工歯排列のためには、(1)下顎の台形を描記するためのレトロモラーパッド間の距離の把握、(2)実際の顎堤状態の把握、(3)ニュートラルゾーン、(4)咀嚼部位直下の床下粘膜の形状、の4点が必要であるとし、その分析のために等脚台形法は有用であるとした。続けて後半では、亀田氏が抜歯後の顎堤吸収を考慮した人工歯排列について述べ、(1)無歯顎となると顎堤吸収の特徴(上顎のアーチが縮小する)からClassⅢ傾向になりやすい、(2)人工歯排列は天然歯のもとの位置を再現することが原則、(3)下顎は義歯の吸着、上顎は義歯の転覆防止を考慮してアレンジすること、の3点について示した。

 6)「義歯の未来」(阿部二郎氏)
 今回の締めくくりにはJPDAの設立者であり名誉会長の阿部氏が登場。「義歯の未来」と題し、昨今ますます話題となっているデジタル義歯について述べた。氏はまず、デジタル義歯の目的は「歯科技工士の仕事を楽にし、一般歯科にデジタル義歯を繁栄させる」、また「歯科技工のエラーを減らし、現在のSEMCDを超えるデジタル義歯を追求」することなどにあるとし、そのメリットについて解説。その上で、現在最新のデジタルワークフローについて示した。そして最後に、「デジタル義歯が日本で流行するかどうかは時代の流れとともに決まってくるであろう。しかし、まだまだ今の歯科技工士の仕事を超えることはできない。ただ、だいぶ近づいていることは事実である」とした。

 阿部氏による総括を除く各パートが、これまでもJPDAで活躍してきた役員や指導医と気鋭会員の組み合わせで行われた今回の学術大会。すでに確立された下顎総義歯吸着理論の世界に新たな息吹を吹き込もうとする意欲が感じられる内容であるとともに、下顎総義歯吸着理論を改めて包括的に学ぶことができる機会となっていた。