2021年11月13日掲載

「Challenge 歯科における審美の可能性を探る!」をテーマに

日本歯科審美学会、第32回学術大会を開催

日本歯科審美学会、第32回学術大会を開催
 さる11月13日(土)、14日(日)の両日、TFTホール(東京都)において、日本歯科審美学会第32回学術大会(宮崎真至大会長、大槻昌幸理事長)が「Challenge 歯科における審美の可能性を探る!」をテーマに約580名の参加登録者を集め開催された。以下、主要な演題について概説する。

(1)学術講演委員会企画「ピンクエステティックスを補綴学的観点から極める」(座長:石浦雄一氏〔昭和大歯科病院インプラント歯科学講座〕、坂本奈津季氏〔昭和大歯科病院歯科衛生室〕)
 本企画では、「歯間乳頭再建への多角的アプローチ~文献レビューから紐解く各治療法の適応症~」と題して高岡亮太氏(阪大大学院歯学研究科顎口腔機能再建学講座クラウンブリッジ補綴学教室)が、そして「審美領域におけるガム補綴や可撤性義歯の応用」と題して佐藤洋平氏(鶴見大歯学部歯学科有床義歯補綴学講座)がそれぞれ登壇。前者では歯間乳頭の保存・増大のための外科的アプローチ、ヒアルロン酸注入によるアプローチ、補綴的アプローチ、および矯正治療的アプローチについて、豊富な文献と自験例を基に示された。また後者では、ガム補綴(歯肉色材料を用いた歯肉部への補綴)を用いた固定性補綴の実例に加え、床義歯においても歯肉部の審美性を確保した症例と技法を数多く提示。歯肉部の審美性確保には患者の要件を充分に考慮すること、また患者の許容する侵襲度の中で行うことが重要であるとした。

(2)アドバンストセミナー2「歯科審美治療のこれからを探る」(座長:吉山昌宏氏、岡山大大学院医歯薬学総合研究科歯科保存修復学分野)
 本セミナーでは、「保存的アプローチからの歯科審美治療 ―Good balance of " MI " and " ESTHETIC "―」と題して田代浩史氏(静岡県開業、医歯大臨床教授)が、「補綴的アプローチからの歯科審美修復治療」と題して北原信也氏(東京都開業)が、そして「スマイルデザインを考慮した審美的矯正治療」と題して橋場千織氏(東京都開業)がそれぞれ登壇。田代氏はダイレクトベニアやダイレクトブリッジをはじめとした最新のコンポジットレジン直接修復法について8症例を提示しつつ、それぞれの技法やその注意点について解説した。また北原氏は間接法による補綴治療に長く携わってきた経験からコンベンショナルな包括的補綴治療の流れについて示したうえで、昨今の接着技術と歯冠色修復材料の進化に言及。これらがもたらすボンデッドレストレーションの恩恵や、ジルコニアをはじめとする各種材料の解説や症例提示を行った。そして橋場氏は、矯正歯科治療を通じた審美性の回復について解説。「スマイルデザイン」のコンセプトのもと、外科矯正以外で顔貌に変化を与えられるものは歯科矯正治療であるとした上で、歯列・顔貌の審美性を構成する要件とそれぞれのパラメータについて詳説した。また、症例供覧では矯正歯科治療単独で対応した症例や審美補綴の協力を得た症例まで、多数を提示した。

(3)理事長講演「美しい口元を ―日本歯科審美学会の挑戦―」(座長:宮崎真至氏)
 恒例の理事長講演では、本年から理事長に就任した大槻昌幸氏(医歯大大学院医歯学総合研究科 口腔機能再構築学講座う蝕制御学分野)が登壇。2020年度の日本歯科審美学会の事業、また2021年度の日本歯科審美学会の事業をそれぞれリストとして示し、コロナ禍の中で行えたこと、また行えなかったことなどを振り返った。また、今後の課題として専門医制度の創設、コンプライアンスの徹底、そして「歯科審美学」の再定義を挙げ、この再定義には国民にわかりやすい表現、新しいキャッチコピー、および審美歯科の知名度を高めるためのワーキンググループの創設などが必要であるとした。

(4)アドバンストセミナー4「メタルフリー修復の最前線」(座長:中村隆志氏、大手前短期大歯科衛生学科)
 本セミナーでは、「補綴治療における審美的および生物学的調和を目指して」と題して土屋賢司氏(東京都開業)が、「メタルフリー修復を可能とするマテリアルテクノロジー」と題して新谷明一氏(日歯大生命歯学部歯科理工学講座)がそれぞれ登壇。前者では歯肉の炎症の原因の補綴的な再考、サブジンジバルカントゥアの生物学と審美性への影響、および歯肉の露出(ガミースマイル)の改善、の3点をテーマに、メタルフリー修復において審美性を獲得するための要諦を示した。また後者では、メタルフリー修復に用いられる材料を焼成法、重合法、加圧成形法、そしてCAD/CAM法の4種に大別し、さらにその下位分類も示して全体を網羅した上で、それぞれの特徴や修復装置の製作ステップについて詳説。初学者にとっても経験者にとっても必要な知識を整理した。

(5)歯科技工士セッション「デジタルデンティストリーの現在と未来」(座長:高田恒彦、東京都開業)
 本セッションでは、「材料特性を生かした補綴装置の製作」と題して小峰 太氏(日大歯学部歯科補綴学第Ⅲ講座)が、「ラボサイドとの連携によるセラミック修復」と題して天川由美子氏(東京都開業)と題してそれぞれ登壇。前者では保険診療におけるCAD/CAM冠の前歯部への適応拡大に関する話題やセラミックのシリカベース/ノンシリカベースによる分類法、また昨今応用が進んでいるジルコニアモノリシックレストレーションのメリット・デメリットや片側リテーナー型の接着ブリッジの可能性などについて示した。また後者では、演者とデジタルデンティストリーの関わりや、デジタル導入前後でのラボサイドでのワークスタイルの変化、また歯科技工士との連携を図って行った審美修復症例3例を提示。デジタル時代であっても歯科医師・歯科技工士が共通の認識をもち、デジタル頼みにならず精度の高い診療を心がけることが重要であるとした。

 このほか、会場では多数のメーカー展示が行われた一方で、ポスター展示はWeb上となるなどコロナ禍の影響が感じられたが、座席数の削減や入場時の検温、また手指消毒剤やアルコール綿の配布などを行いつつ、「ウィズコロナ」下での学会運営のありかたを示していた。なお、来年度の学術大会は、きたる2022年10月15日(土)、16日(日)の両日に、りゅーとぴあ新潟市民芸術文化会館(新潟県)において、新海航一氏(日歯大新潟生命歯学部歯科保存学第二講座)を大会長として開催される予定。

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