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2022年5月13日

第71回日本口腔衛生学会・総会開催

「進取の気風で切り拓く口腔衛生の未来」をテーマに

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 さる5月13日(金)より、第71回日本口腔衛生学会・総会(於保孝彦学会長、天野敦雄理事長)が「進取の気風で切り拓く口腔衛生の未来」をテーマにWeb配信にて開催されている(2022年5月27日まで配信予定)。

 特別講演2では於保学会長(鹿児島大教授)の座長のもと、宇都由美子氏(鹿児島大教授)が「Society 5.0時代のヘルスケア」と題し講演。氏は、院内のシステム構築に取り組んだ経験をふまえ、歯科では電子カルテやオーダリングシステムへの転換が必要だと説明。システム化による業務の効率化や管理の正確性の向上、患者の待ち時間の短縮、院内情報共有の円滑化、インシデントの減少などのメリットを挙げたうえで、初期費用やランニングコスト、セキュリティ対策の強化、職員のITリテラシー教育、システム管理の人材確保が課題であると述べた。AIやIoT、ロボット、ビッグデータによる医療のIT化が、医療ケアや予防への転換、個人の主体的健康管理につながることに期待が高まる講演となった。

 シンポジウム1では、三宅達郎氏(大歯大教授)、廣瀬晃子氏(朝日大教授)の座長のもと、「WHOの口腔保健の決議を受けて:学術的視点から考えるフッ化物応用」の演題で、新進気鋭の研究者がフッ化物応用の新しいエビデンスや考えを披露した。

 相田 潤氏(医歯大教授)は、健康格差を是正するためには、ハイリスク患者に焦点を当てたハイリスク戦略より、社会環境を変えることを目的としたポピュレーション戦略の有効性を強調。同戦略が奏功している例として、園や小中学校で実施が広まっているフッ化物洗口を挙げた。

 松山祐輔氏(医歯大助教)は、水道水フロリデーションと口腔および全身の健康との因果関係を分析。特に残存歯数がうつ症状の発症に影響するという自身の研究から、フロリデーションの効果を支持した。

 濃野 要氏(新潟大教授)は、フッ化物洗口の長期的な効果を示す事例として、2020年の「弥彦調査」を披露。これはフッ化物洗口が日本で最初(1970年)に行われた新潟県の弥彦小学校を起点に、それから50年後のう蝕予防効果や安全性を検証したもので、洗口経験のない者に比べ、園や小中学校で一部期間(最大9年間)洗口を経験したものは2.29本、全期間(最大11年間)洗口を経験したものは3.51本のDMFT減少が見られたことなどを供覧した。

 最後に、竹内研時氏(東北大准教授)が、日本におけるフッ化物洗口の医療経済的な効果を4本の文献をもとに分析。集団的なフッ化物洗口の実施は、う蝕予防効果とともに経済効果にもすぐれているとまとめた。

 シンポジウム4では、安細敏弘氏(九歯大教授)、久保庭雅惠氏(阪大准教授)の座長のもと、「歯科保健行動を促す戦略を考える~個人レベルから集団レベルまで、健康行動を1ミリ変えるには~」の演題で、政府関係者や行動変容の専門家が講演した。

 小嶺祐子氏(厚労省歯科口腔保健推進室)は、歯科保健医療を取り巻く現況と、それに対する国の取り組みを概説。働く世代の歯科受診率が低調であることを受け、ナッジ理論(後述)を導入した受診勧奨ハガキの事例などを紹介した。

 中村千賀子氏(NPO健康と病いの語り ディペックス・ジャパン理事)は、患者とのコミュニケーションのヒントを披露した。氏によれば、患者の訴える内容だけでなく、その感情や体験を理解しようとする態度を示すことで、「患者が自分は大切にされている」と思い、信頼関係が築かれ、行動を変化させるモチベーションになるという。

 山根承子氏(株式会社パパラカ研究所代表取締役)は、行動経済学の専門家として、ナッジ理論について解説した。ナッジ理論とは、行動変容を促す際、強制的にやらせるのではなく、望ましい方向への軽いひとつき(Nudge)で誘導する手法をいう。現状維持を好む、得よりも損を大きく感じる、他人に影響されるといった「ヒトのもつ意思決定の癖」を利用して自然に行動を変えるもので、歯科領域での応用が注目されている。講演では、階段を使わせるようにする、野菜を食べるようにするなどのナッジ理論の実例のほか、より個人の属性に応じたナッジ――パーソナライズド・ナッジの実例も報告された。

 河原 章氏(一般社団法人日本保健指導協会代表理事)は、効果の上がっている行動変容アプローチの実例を紹介した。同協会は、特定保健指導の対象になった人に、すすんで生活習慣改善に取り組んでもらえるようさまざまな提案をしている。(1)スマホなどのアプリを活用した記録・管理、(2)腕時計型のAIデバイスの使用、(3)体重・体脂肪測定とそのデータのアプリ連動、(4)低糖質・低カロリー弁当の提供、(5)健康行動に対するインセンティブなどがその例だが、たとえば(4)の低糖質・低カロリー弁当を送付して、それをもとに食生活指導をする手法では、3か月間の達成率は40%を記録し、一般の指導に比べて高い数値を示したという。

 そして最後に、植野正之氏(埼玉県立大教授)が、歯科では1990年代中頃から応用されはじめた行動変容理論について、現代までの変遷・統合を学術的にまとめた。そのなかで氏は、Intervention Mappingをはじめ、よく使われている行動変容プログラムを概説した。

 これらにくわえ、同大会では、口腔衛生や予防歯科における基礎・疫学・臨床研究分野での最新トピックスや、生活習慣病と歯科口腔保健の関連、歯科による禁煙支援、薬剤関連顎骨壊死(MRONJ)などについての講演が行われ盛会となった。