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2025年6月号掲載

AIセファロ分析システムを開発した臨床家

※本記事は、「新聞クイント 2025年6月号」より抜粋して掲載。

専門医レベルの矯正治療をサポートするシステムを提供したい

 綿引淳一氏(東京都開業)が代表取締役を務めるDental Brain 株式会社はこのたび、矯正歯科治療の必要性を科学的データに基づき、視覚的かつ客観的に提示できるAI を搭載した提案支援ツール「DIP Ceph PRO」の正式版をリリースした。本欄では、本システムの開発背景とその概要とともに、綿引氏が創造するAI技術によってだれもが専門医レベルの治療を提供できるサポートの実現と世界を見据えた展望についてうかがった。

綿引:2024年5月にAI セファロ分析提案支援システム「DIP Ceph」のベータ版(無料)をリリースし、本年4月に「DIP Ceph PRO」の正式版(有料)をリリースすることができました。本システムは、私が考案した矯正歯科学と補綴歯科学の診断を融合させることで組み上げた独自の治療計画理論「DIP 分析法」(特許出願中)をベースに、この理論を具現化するためにAIを搭載したシステムです。

 今回のシステム開発ならびにDental Brain 社設立の発起人は、私が治療を担当したIT企業を経営する熱い情熱をもった患者さんでした。私は「包括的矯正歯科治療」を診療のポリシーとしていて、この治療方針やアプローチに対して強く共感され、サポートの提案を受けたのがきっかけです。加えて、歯科のトレンドがハードウェアからソフトウェアに移ってきた昨今、世界をリードするデジタル関連の製品・システムを開発している大半が米国・中国・韓国の企業であり、「研究や臨床で日本から歯科界を盛り上げるような取り組みができないか」と以前より考えていたことも本プロジェクトの原動力となりました。

 歯科界の潮流として、デジタル技術を用いて三次元的情報を利活用する機運が高まっているなか、私はあえてセファログラムという二次元のプラットフォームに注力しています。DIP分析法の特徴にもかかわることとして、矯正治療では治療前後の変化を予測するうえでセファログラムを重ね合わせます。この作業にAIを搭載することで、だれもが筋突起や気道、舌など従来評価が難しかった部分まで含めて高精度・高速に専門医レベルのトレースを実現し、加えて莫大な臨床データの収集にも貢献できます。

 AIは近年、すさまじい速度で普及・発達しています。一般的に使用されている大規模言語モデル(LLM)型AIも莫大な学習量で飛躍的に精度が高まっていますが、高度な専門性を求められる分野は学習データの乏しさから、時に誤った回答を導きます。そこでDental Brain社は、異なる種類の情報を関連付けて多角的要素から出力できる歯科治療に特化したマルチモーダルなAIの開発に取り組んでいます。セファログラム、パノラマ、顔貌所見といった複数データから総合して分析し、だれもが専門医レベルの治療を提案・提供できるシステムの創造を目指します。私たちの日本から世界に向けた挑戦はまだ始まったばかりです。