AIや薬剤関連顎骨壊死などさまざまなテーマで講演が展開され、盛会となる
(公社)日本口腔インプラント学会、第55回学術大会を開催
さる10月24日(金)から26日(日)の3日間、福岡国際会議場・マリンメッセ福岡B館(福岡県)において、第55回公益社団法人日本口腔インプラント学会学術大会(日本口腔インプラント学会第43回九州支部学術大会併催/細川隆司大会長、理事長)が「国民から信頼される口腔インプラント治療―医療DXが切り開くインプラント治療の未来―」をテーマに開催され、約5,150名の歯科医療従事者が参集した。
今大会ではインプラント周囲炎や再生医療、デジタルプランニングなどにフォーカスしたシンポジウムのほか、教育講座、施設セッション・ランチョンセミナーなどの各種セミナー、一般口演、ポスター発表などプログラムが多岐にわたり、展示ブースも含め終日盛況となった。以下に一部のシンポジウムを抜粋して報告する。
シンポジウム1「超高齢社会に対応したインプラント治療」では、馬場俊輔氏(大阪歯科大学)、吉岡 文氏(愛知学院大学)を座長に迎え、萩原芳幸氏(日本大学)、古屋純一氏(昭和医科大学大学院)、野村智義氏(東京都開業)が登壇。萩原氏は、超高齢社会におけるインプラント治療のポイントとして、早期の予後不良インプラントの撤去・スリーピング、清掃しやすい補綴装置(形態)への移行、家族・介護者への口腔衛生の教育などを挙げ、多数歯欠損への移行時期を遅らせ、疾病拡大防止を促した。古屋氏は、訪問歯科診療の際の症例を供覧し、患者の意識レベルによっては歯やインプラントが対向の顎堤に刺さるなどのリスクになりうるとし、地域の他職種・家族でも管理しやすい口腔状態にすることが重要だと話した。そして、野村氏は高齢者歯科医療の現状を述べ、訪問歯科診療などにおいてインプラントのメーカーや製品名が不明な場合は日本口腔インプラント学会が推奨している口腔インプラントカードが有用であると紹介。また、インプラント管理のために学会レベルでの働きかけが必要であるとし、症例レジストリを作成中であると話した。
特別シンポジウム「AIとロボティクスが切り拓く歯科医療の未来」では、細川氏(九州歯科大学名誉教授)、鮎川保則氏(九州大学)を座長として、西田 健氏(北九州市立大学学国際環境工学部)、野崎貴裕氏(慶應義塾大学理工学部/医学部、神奈川歯科大学歯学部)、山口 哲氏(大阪大学大学院歯学研究科 AI研究ユニット)が登壇。西田氏は、AIは既知の情報を使用してその間の情報を推論する「内挿」は得意な一方で、既知の情報を越えた外側の情報を推論する「外挿」は不得意であると解説。同氏は、セカンドオピニオン支援の研究を開発中であるとし、AI拡張によって人間とAIが協働していくべきだとまとめた。野崎氏は、リアルな力触覚を再現する技術「リアルハプティクス」について解説し、その技術を用いて開発した力触覚義手を紹介。また、骨質を測定し、インプラントドリル自動停止制御システムの研究を行ったとした。そして、山口氏は、歯科領域において深層学習や生成AIを活用した例として、CAD/CAM冠の脱離を予測するシステムや、インプラントの術式決定を支援するシステムを紹介。AIは有用であるものの、あくまでも最終判断は人が行うべきだと注意を促した。
シンポジウム10「がん治療とインプラント -インプラント周囲薬剤関連顎骨壊死を中心に-」では、山森徹雄氏(奥羽大学歯学部附属病院)、小林 恒氏(弘前大学大学院医学研究科)の座長のもと、岸本裕充氏(兵庫医科大学歯科口腔外科学講座主任教授)、山内健介氏(東北大学)、日比英晴氏(名古屋大学大学院医学系研究科)が登壇。岸本氏は、ARA(骨吸収抑制薬)投与開始前からの歯科の介入によってMRONJ (薬剤関連顎骨壊死)発症を予防できるとし、高用量のARA投与患者にはインプラント治療を行うべきではないとした。山内氏は、MRONJ治療においては保存療法よりも外科療法、とりわけES(extensive surgery:広範囲の骨切除)での治療成績は良いため、可能であれば早期にESを適応する傾向にあるとした。そして、インプラントメインテナンス中であっても定期的な健康状態・服薬の確認を随時行い、患者管理を徹底する必要があるとまとめた。さらに、日比氏は、放射線治療や非吸収性骨補填材で考慮すべき顎骨壊死のリスクについて述べ、MRONJはインプラント手術がトリガーになるのではなく(implant surgery triggered)、インプラントがあることでトリガーになる(implant presence triggered)と話した。
なお、次回学術大会は、きたる2026年9月18日(金)から20日(日)の3日間、東京国際フォーラム(東京都)において、萩原芳幸大会長のもと開催予定。