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2016年9月23日

第22回日本摂食嚥下リハビリテーション学会学術大会開催

超高齢社会の到来を背景に、これからの摂食嚥下を考える

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 さる9月23日(金)、24日(土)の両日、朱鷺メッセ新潟コンベンションセンター(新潟県)において、第22回日本摂食嚥下リハビリテーション学会学術大会(井上 誠大会長、植田耕一郎理事長)が「摂食嚥下リハビリテーションの新たなる挑戦―これからの20年を考える―」をテーマに開催され、約5,100名の参加者が集まった。

 わが国では超高齢社会が進み、2025年に団塊の世代が後期高齢者を迎え、さらに2035年には世帯主が75歳以上の単独世帯が40%を越えると予想されている。そのとき医療保険・社会保障制度がどのような変革を迫られるのか、摂食嚥下リハビリテーションには何が求められるのか、これから先を見据えるべく、歯科医師をはじめ、医師、言語聴覚士、理学療法士、歯科衛生士、管理栄養士などによるシンポジウム、パネルディスカッションのほか特別講演、招待講演、一般口演、ポスター発表など多数の講演が行われた。

 初日の会長講演では井上 誠氏(新潟大大学院医歯学総合研究科摂食リハビリテーション学分野)が、摂食嚥下がいかに複雑な機能か、いかに身体、脳を使っているかを説明し、2日間にわたり行われる講演を一部紹介した。また、摂食嚥下にかかわる職種は多数あるが、それぞれ外部への情報発信の機会が少なく、職種内で常識とされていることでも他職種には知られていないことが多々あるため、本大会をとおして摂食嚥下の理解を深めるとともに、「嚥下は身体機能である」ということをもっと広く知ってもらいたいと締めくくった。

 2日目の午前中は「シンポジウム2 咀嚼を理解する」が、松尾浩一郎氏(藤田保健衛生大医学部歯科)、増田裕次氏(松歯大総合歯科医学研究所顎口腔機能制御学部門)を座長に迎え、行われた。

 はじめに増田氏が、咀嚼運動は脳幹のはたらきと大きく関わると説明。味わうための脳活動は行動発言にとって重要だと述べた。また、松本大学が普及に努めている、よく噛まなければいけない食材を選び、調理法を工夫した「カムカムメニュー」を同大学内の学生食堂にて提供し、調査したアンケート結果から「美味しく噛む食事(咀嚼)は日々の食生活の管理に役立つ」と解説・分析した。

 続いて池邉一典氏(阪大大学院歯学研究科顎口腔機能再建学講座有床義歯補綴学・高齢者歯科学分野)は、2010年度より行っている健康長寿の要因を探索する大規模疫学研究の最近の調査結果から、「咬合力の低い人は緑黄色野菜、魚介類の摂取が少ないこと」「咬合力の低下が下肢の運動機能低下の原因になっていると示唆されたこと」「咬合力は認知機能低下の初期段階においては口腔機能が関連していると示唆されたこと」を示し、咬合力はさまざまな全身の健康に関連すると述べた。

 古屋純一氏(医歯大大学院地域・福祉口腔保健衛生学分野)は補綴歯科、高齢者の摂食リハビリテーションという2つの現場での経験をもとに、口腔ケアや義歯は「食べるためのもの」でなければならず、義歯装着の有用性を理解してもらいたいと訴えた一方で、食べる機能に不利にはたらくのであれば、撤去の必要性もあると述べた。義歯や咀嚼は摂食嚥下リハビリテーションの枠組みのなかで捉えることが重要だが、そのために必要な臨床的・研究的エビデンスの構築は未だ十分ではないと結んだ。

 最後に柴田斉子氏(藤田保健衛生大医学部リハビリテーション医学1講座)は、VF(嚥下造影検査)において二相性食品(固形物と液体の混合食品)を用いた訓練を実施し、検査に用いる食品の難易度を規定したデータを示したうえで、直接訓練で高いレベルの食事形態を目指すには、ゼリーやペーストの丸呑みの段階から、咀嚼から嚥下までの一連の過程を行う訓練が必要であると述べた。それらを受けて開発した「プロセスリード」(大塚製薬工場)を用いた臨床評価、訓練手法も合わせて紹介した。

 2時間にわたり行われた本シンポジウムは、咀嚼の基礎から摂食嚥下リハの臨床応用まで、まさに咀嚼についての理解を深められる内容となった。

 なお、次回の第23回大会はきたる2017年9月15日(金)、16日(土)、幕張メッセ(千葉県)において、市村久美子大会長(茨城県立医療大)のもと開催予定。