2023年5月19日掲載

「令和の健康戦略『防ぎ守る』」をメインテーマに

第72回日本口腔衛生学会学術大会開催

第72回日本口腔衛生学会学術大会開催
 さる5月19日(金)から21日(日)までの3日間、第72回日本口腔衛生学会学術大会(久保庭雅恵実行委員長、天野敦雄大会長・理事長)が、大阪国際交流センター(大阪府)において開催された。「令和の健康戦略『防ぎ守る』」をメインテーマに据えた本大会には、歯科関係者約750名が参集し、盛会となった。

 基調講演は、「令和の予防歯科臨床」。最初に登壇したのは、座長兼演者の天野氏(阪大教授)で、「生涯28のための歯周病予防」の演題で講演した。Pg菌をはじめとする歯周病菌の性質やバイオフィルムの病原性、ディスバイオシスなど最新のペリオドントロジーの解説をふまえ、リスク評価をしてその人に合ったオーダーメイドの予防をしていく、つまり「予測歯科」こそが令和の歯科診療だと力説した。

 続く久保庭氏(阪大准教授)は、「昭和VS令和のカリオロジー」の演題で、最新のカリオロジーについて詳説。ミュータンス連鎖球菌とラクトバチラス菌、ショ糖が主要因とされていた昭和の病因論から、ビフィドバクテリウムやアクティノミセス、発酵性糖質や調理でんぷんも関与する令和の病因論が示された。

 3人目の演者である林 美加子氏(阪大教授)は、いま高齢者に急増している根面う蝕への対策を「『削らない』う蝕治療の基盤をつくる」と題して論じた。日本歯科保存学会の「う蝕治療ガイドライン」をもとに、フッ化物配合歯磨剤とフッ化物洗口の併用や、5,000 ppmのフッ化物配合歯磨剤(日本では認可されていない)の効果がデータとともに提示された。また、フッ化ジアンミン銀は、黒変作用はあるものの高いう蝕抑制能があり、要介護状態の患者の根面う蝕対策には非常に有効とした。

 最後は、谷垣裕美子氏(dhcoax主宰、フリーランス歯科衛生士)が「防ぎ守るマイスターDHの役割」と題して講演。熟練の歯科衛生士の立場から、患者に予防意識を芽生えさせるためのテクニック――第一印象をよくする、患者さん個人に興味をもちその人の関心事をとらえる、共通項があれば会話のネタにする、プロービングなどの検査をする前には何をするのか・何のためにするのかを先に説明するなど、具体的な事例が豊富に述べられた。

 シンポジウム1は、「健康寿命の延伸からHealthy Ageingを達成するために─8020運動の経験をアジアに─」。小川祐司氏(国際交流委員会、新潟大教授)の座長のもと、まずは大久保満男氏(元日本歯科医師会会長)が登壇。歯科医療は生きる力を支える生活の医療だと繰り返し訴えてきた氏は、「歯科の視点を拡げた8020運動」という演題で、‟むし歯の洪水時代”の子どもたちを写したスライドとともに、8020運動が生まれた経緯と自身のかかわりを振り返った。

 続く竹原祥子氏(新潟大准教授)は、「8020運動の政策分析―保健政策概念モデルHealth Policy Triangleを用いて」と題し、8020運動がもたらした成果をキーインフォーマントインタビュー(深く関与した専門家への聞き取り調査)形式で分析した。8020運動は、2011年の「歯科口腔保健の推進に関する法律」制定の後押しとなったほか、8020推進財団の成立と、歯科医師の意識の変革――それまで歯科保健の考え方がバラバラだったのが、1つの方向性をもてるようにしたという。

 その後を引き継いだ深井穫博氏(深井保健科学研究所所長)は、「Healthy Ageingと8020運動」の演題で講演。日本発の8020運動は世界的に評価されており、タイやマレーシア、インドネシアなど、わが国と同じく高齢社会への道をたどりつつあるアジア諸国でも、8020運動がはじまっているという。

 ほかにも日韓国際交流招待講演や市民公開シンポジウム、ランチョンセミナー、一般口演、ポスター発表など、3日間にわたり多くのプログラムが実施された。奇しくもG7広島サミットと同日に開催された本大会。歯科の叡智が集結し、大いに実りある会合となった。

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