2018年3月17日掲載
講師に櫻田教授を招聘し、法歯学分野の知見を披露
医歯大技友会、学術講演会を開催
今回の演題は、「この人を帰るべきところへ ~法歯学の現場~」(櫻田宏一氏、医歯大大学院医歯学総合研究科法歯学分野教授)。壇上で櫻田氏はまず、遺体の身元確認のための要素として指紋とDNA型、そして歯科所見が世界共通の方法であることを紹介。その上で、いったん切削や修復処置を加えれば自然治癒することなく確実に証拠が残る歯科治療の特異性・有用性について述べた。また、警察の依頼により身元確認を行う際の手順についても実例とともに示し、歯科的記録は医科による法医解剖時に同時に行われる場合が多いこと、ミスを避けるために2名が立ち会って記録していること、そしてデンタルチャート記録の書式や方法などについて詳説した。さらに、平時に1体の遺体を対象とする場合と、大規模災害により多数の遺体を対象とする場合でのワークフローの違いについても東日本大震災の際の実例をもとに示すとともに、こうした災害時に役立つ義歯刻印法についても言及。1931年にオーストリアで考案されたとされる本法について、スウェーデンや日本国内での取り組みや製作法について紹介した。
また、歯科的方法以外の身元確認の方法としてDNA型検査と寄生ウイルスゲノム型検査についても紹介。前者は報道などで名称がよく知られているが、検査方法によっては100分の1以下の精度しかなくそれ単体での身元特定は難しいことや、検体へのコンタミネーションなどにも注意が必要で、やはり歯科的所見との併用が必要であるとした。また後者は、進行性多巣性白質脳症の原因となるJCウイルス(以下、JCV)のDNA型を利用した身元不明遺体の出身地域推定について。JCVはほとんどのヒトに不顕性感染している上に、ひとたび感染すると終生置き換わらないことから、全世界に12種類存在し、地域によって分布が異なるJCVのDNA型を基にヒトのおおまかな出身地を推定できるとし、実際に日本国内で事件・事故で死亡したミャンマー人、インド人、イギリス人の鑑定を行った例について示した。
会場では歯科技工士が製作する補綴物が貢献する要素が大きい法歯学の分野ということもあり、参加者らは終始真剣な眼差しで聴講していた。また、引き続いて行われた懇親会にも多くの参加者が参集し、併せて盛況となっていた。