イートロス医学を研究する医師・歯科医師

2020年6月号掲載

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2020年6月号掲載

イートロス医学を研究する医師・歯科医師

歯科から「食べる」を支えたい

 歯科医師と医師のダブルライセンス取得者の米永一理氏(東京大学大学院イートロス医学講座 特任准教授)が2020年4月、東京大学大学院医学系研究科の新講座の代表に就任した。その講座名は「イートロス医学」ということだが、いったいどのような研究を行うのだろうか。医科歯科連携でも注目されている米永氏にお話をうかがう。

米永:イートロス医学講座は、人が生きる根幹である「食べる」を支えるため、開設された社会連携講座です。「イートロス」とは食べられない状態が続くことであり、多くの国民に「食べられない」ことが続くことが好ましくないことを端的に認知していただくことを目的として、「Eating Loss」から命名しました。

 イートロス医学講座では、フレイルやサルコペニアなどの加齢性変化における病態を口腔領域からアプローチし、イートロスに関する予防・診断・治療を学問として体系化し、多くの国民が健康寿命をまっとうできるよう研究、教育、臨床を実践することを目指しています。

 このイートロスは、医学・歯学にまたがる病態であり、医科歯科連携が重要です。特に今後の口腔医療(歯科医療)では、う蝕および歯周病に加えて、イートロスをいかに予防し、早期発見・早期治療につなげるかが、1つの役割となると想定しています。なぜなら、イートロスが続くと悪液質(カヘキシア)となり、死につながる状態となるからです。

 カヘキシアは、人の3大苦痛(①疼痛、②疾病関連うつ、③カヘキシア)の1つです。疼痛および疾病関連うつに対しては、比較的治療法があります。一方で、カヘキシアに対する治療法はまだ確立されているとは言えません。また人の3大欲求である①食欲、②睡眠欲、③排泄欲の中で、唯一食欲だけは、自分で食べられなくなった時に、だれかに介助をしてもらわない限りは満たすことができません。これらより、食べられないことが続くイートロスの苦痛をどうにかしたい思いがあり、当講座の開設につながりました。

 今後、イートロスの予防・診断・治療が学問として体系化してくれば、メタボリックシンドローム、サルコペニア、ロコモティブシンドローム、フレイルに続く、歯科発のキーワードとして、「8020」とともに、国民に口腔領域に関心をもっていただく役割を担えればと思います。「イートロスになることは良くないんだ」、また「イートロスになってもなんとかしよう!」、そのためにも「歯科との関係をより大事にしよう!」との機運が高まり、国民の公衆衛生活動に貢献できればと考えています。

 そして、諸先輩方が大切に育ててきた歯科医療界を、今後われわれ世代が受け継いでいく必要があります。私が憧れたように、中高生が今まで以上に魅力的な職種として感じてらえるよう、輝いている歯科医療者を多く育てることができればと夢見ています。