2023年4月号掲載
歯科から産学連携を支援する研究者
ヨーグルト、タブレット、洗剤、肌着――。歯科とは関係なさそうだが、これら商品に共通するものがある。
二川浩樹氏(広島大学大学院教授)が開発したう蝕や歯周病を予防する乳酸菌「L8020」、持続型抗菌成分「Etak」がさまざまな分野で使用されている点である。またこの研究開発が評価され、2022年10月には令和4年度中国地方発明表彰の栄に浴した。本欄では、開発者であり研究者の二川氏に自身の研究を振り返っていただくとともに、研究に対する思いをうかがった。
二川:当時は歯科補綴学教室に在籍していて、デンチャープラークの研究に取り組んでいました。医局では障がい者支援施設に訪問して先天的な障がいや精神疾患を有する利用者さんへの歯科治療を行っていたのですが、2、3年経過すると再発するという問題がありました。このような患者さんに形成されるバイオフィルムについて研究していたところ、①口腔内の微生物同士の相互作用、②補綴装置などの材料や表面の性質、③生体反応や浸出液などの生体成分――3つの相互作用がかかわっていることがわかりました。当時は口腔内にプロバイオティクスを応用するという研究はほとんど行われていませんでしたが、口腔内には腸内細菌叢と同じ乳酸菌が含まれているため、この細菌を利用してう蝕や歯周病を発生しにくくする研究から生まれたのが「L8020乳酸菌(ラクトバチルス・ラムノーザスK03株)」です。また、歯や補綴装置の表面を抗菌加工するという発想から生まれたのが「Etak」という成分でした。
「Etak」の転機は、2009年5月の新型インフルエンザの流行です。「Etak」の抗菌成分には口腔の治療や洗浄で使用されている「第4級アンモニウム塩」を活用していて、エンベロープ・ウイルスに効果があることから本学のウイルス学の坂口剛正先生に協力していただき、固定化しても抗ウイルス効果があることを確認しました。
特許申請や製品化に至るまではそれなりの苦労がありましたが、広い視野をもってさまざまな分野に興味をもつべく他分野の企業が参加する地元発のプロジェクトなどにみずから足を運んでいたところ、自分の努力だけでは解決できない人とのつながりからエーザイ社との「ご縁」をいただき、製品化することができました。その後、おかげさまでさまざまな企業から製品化のお声がけをいただいています。今回の受賞もそのような成果が評価されたものと思っています。
長年研究を続けてきた立場として私が若い研究者に言えることは、夢中になれたり熱中したりできるような「研究を楽しむ」ことです。研究室にこもるだけではなく時には異業種の方と情報・意見交換することで新しいアイデアが生まれるかもしれません。また、若い研究者を育成する教育者の立場としては彼らの好奇心を呼び起こし、やる気につながることでみずから考えて行動するようなきっかけが与えられるように指導していきたいと思います。