がん専門病院で活躍する歯科技工士

2020年2月号掲載

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2020年2月号掲載

がん専門病院で活躍する歯科技工士

がん専門病院における歯科技工士の役割や重要性を発信したい

 わが国のがん診療のリーディングホスピタルの1つである国立がん研究センター中央病院。そのがん専門病院における歯科技工業務を1人で担当する歯科技工士・小室美穂氏(国立がん研究センター中央病院 歯科)。小室氏は2019年2月より常駐の院内技工士となり、まもなく1年が経過する。歯科技工士不足が叫ばれるなか、がん患者のQOLを支える歯科技工士の意義とその役割についてうかがった。

小室:がん専門病院に院内歯科技工士を配置することは全国初です。がん患者さんを口腔からサポートするがん口腔支持医療における歯科技工士の役割やその重要性にいち早く注目していただき、常駐化にご尽力いただいた歯科医長の上野尚雄先生に感謝したいと思います。

 私はこれまで顎補綴を専門とする歯科技工士として働いていましたが、がん専門病院での院内技工士の仕事は顎補綴だけではなく、多岐にわたります。たとえば外科手術における歯列保護用のマウスピースの作製、頭頸部がん放射線治療時に使用する口腔内装置(スペーサー)など、がん治療を安全、円滑に進めるためのさまざまな歯科技工物が必要とされています。赴任して1年あまりで、約1,000件(2019年12月末時点)の歯科技工業務を担当させていただき、現在は国立がん研究センター東病院(千葉県柏市)からも依頼を受けています。

 院内技工士である最大のメリットは、実際の診療現場に一緒に立ち会えることです。歯科医師はじめさまざまな医療関係職との「顔の見える」密なコミュニケーションがとれ、お互いの専門分野からの意見交換がよりスムーズになりました。たとえば放射線治療のスペーサー作製には、放射線治療科の医師が直接歯科外来に来て、どのような形態にするか患者さんを交えて相談することもあります。また、チェアサイドでがん患者さんから直接状況や希望を聞き、口腔内を見られることで、印象や模型だけからは得ることができない有益な情報(特に粘膜状態や開口量、歯の動揺度、患者さんのキャラクターなど)も得ることができ、より高精度の歯科技工物製作と質の高い診療の提供が可能となりました。

 さらに、がん患者さんは緊急の治療を要したり、全身状態が急変するなど、状況によっては早急な対応が求められたりするため、不測の事態に対応しやすいのも院内にいるメリットです。今ではすべての歯科技工業務を私が行うことで歯科医師、歯科衛生士が各々の業務に専念できるようになったため、診療の質・スピードが向上し、外来患者数が増加したと言っていただいています。

 近年、がん口腔支持医療として、口腔ケアをはじめとする周術期口腔機能管理の重要性が認識されつつありますが、その中では歯科技工士も、とても重要な役割を担っています。今後は院内の業務と並行して、がん専門病院での歯科技工士の役割やその重要性を少しでも発信し、がん患者さんを支える歯科技工士を増やす活動も頑張りたいと考えています。